ストレッチで筋肉が長くなる?
静的ストレッチをすると柔軟性があがりますね。柔軟性自体をストレッチの目的にすることは、あまり望ましくないのですが、事実として、柔軟性があがります。
なぜでしょうか?
筋肉の性質には、粘性と弾性があります。弾性というのは、ばねと同じ性質。引っ張れば、もとに戻る性質です。粘性というのは、蜂蜜や粘土をイメージしてください。じわーっと変形して、すぐには戻らない、そういう性質です。
イメージ的には、筋肉にはバネの部分と粘土の部分がある、という感じです。
筋肉を引っ張ると、まずバネが伸びます。もとに戻ろうとする力も高まるため、引っ張る力がなくなれば、筋肉はすぐに元の長さに戻ります。ですが、引っ張ったままキープすると、粘土の部分が伸びてきます。筋肉がじわーっと伸びてくるのです。このために必要な時間が15秒から20秒。ですから、ストレッチでは、一つの姿勢を15秒から20秒保つ必要があるのです。
とはいっても、粘土というのはあくまでも比喩で、実際には粘土のように一度伸びたら伸びっぱなし、とはなりません。ていうか、伸びっぱなしじゃ困りますね。当然、復元力も働くわけです。つまり、ストレッチで粘弾性が低下しても、短時間で元に戻ります。
いくつかの検証が行われていますが、だいたい5分からせいぜい2時間でもとに戻る、と言われています。ストレッチの効果は
2時間しかもたない、というわけです。
ですが、習慣的なストレッチで柔軟性が上がることも経験的な事実です。いくつかの研究でも、ストレッチを4週間続けると、その後、4週間にわたって、柔軟性が維持されることがわかっています。
これは矛盾していますね。粘弾性は筋肉の柔軟性の指標です。粘弾性はすぐに戻るのに、柔軟性は維持される、というのですから。
実は、ストレッチを繰り返すことで、筋肉が力を発揮する最小単位の組織である、サルコメア(筋節)の内部結合が伸びた状態になるのです。
サルコメアは、アクチンとミオシンが重なり合っているのですが、その重なりが大きすぎても、逆に小さすぎても発揮できる力が弱まります。伸びてしまった筋肉も、縮こまってしまった筋肉も、十分な力は発揮できないのです。
そして、ストレッチを繰り返して、アクチンとミオシンの重なりが小さくなった状態は、まさに、筋肉が伸びてしまった状態。ストレッチのし過ぎで関節が安定しなくなる、というのは、この状態です。
ですが、人間のからだというのはよくできていて、3週間ほど、この状態が続くと、筋肉に新たなサルコメアが増えてきます。ゴムに例えると、引っ張った状態が3週間続くと、そのゴムに線維が継ぎ足されて、ゴム本来の長さが長くなります。それによって、無理に伸びた状態から自然な状態に変わるのです。
つまり、ストレッチを繰り返していると筋肉が長くなるわけです。
逆に、姿勢が悪くて、筋肉が縮んだ状態だと、やはり3週間でサルコメアが減る、つまり、筋肉が短くなる、とも報告されています。
もともと、ストレッチの目的は、コンディションをよくすることであって、柔軟性それ自体を目的としない方がよいのですが、姿勢がゆがんでいると、一方の筋肉は短く縮み、反対側の筋肉(拮抗筋)は長く伸びてしまっています。こうした場合には、目的は、縮んだ筋肉の柔軟性になります。
また、股関節が動きにくい場合、ストレッチによって、歩行速度も上がります。
ただし、柔軟性を求めるあまり、無理に伸ばせば、筋肉が適応する前に関節周りの組織が傷つきます。また、意外と知られていませんが、柔軟性に対応する筋力がないと関節が不安定になります。過度なストレッチは本当に危険です。
ストレッチに限らず、目的を持って、到達すべきイメージをはっきりとさせたトレーニングを行いたいものです。
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なお、ストレッチの長期効果には、疼痛適応の効果もある、という説もあるようです。弱い痛みを繰り返すことで痛みに鈍くなる、
ということですね。
これについては、どの程度検証されているのか、わからないのですが、事実とすれば、なおさら、過度のストレッチは危険と言うことになります。痛みは大切な危険信号です。その危険信号が出にくくなる、ということは、知らないうちに無理をしても気がつかない、ということです。
適度なストレッチはコンディションを整えるのにとても効果的、それだけに、くれぐれも無理をしないように、心掛けてください。