思い出ばなしが効果的?
私たちは、誰もが子ども時代を過ごしてきました。仲の良かった友達、かわいがってくれた両親、大切なことを教えてくれた恩師たち。そんな大切な人たちとの日々を思いだすだけで、心があたたまりますね。
かつては、加齢によって、昔のことを語ることが増えてくることは、否定的に捉えられ、老いの繰り言とか現実逃避などと考えられていました。しかし、現在では、年長者が、過去の思い出を繰り返し語ることには、積極的な意味があると考えられています。
1963年に、アメリカの精神科医ロバート・バトラーは、回想法を提唱しました。心理療法としての回想法は、否定的な回想が肯定的になったり、より統合度の高い回想に変わることで、心理的健康や人生満足度が改善される効果があるといいます。
私たちの思い出は、私たちの人生の歩みそのものです。それを振り返り、自分の生きざまを確認することで、私たちは自分の人生を、一つの物語として改めて捉えなおし、現在の自分を肯定的に統合していくのです。
さて、施設や自治体の事業などでは、もっと気軽な、過去のエピソードなどを語る回想法が行われています。こうした回想法は、長期的に行うことで、認知機能の改善にも効果があることがわかり、認知症予防などで使われるようになりました。また、不安を減らすため、認知症が進んだ方の、徘徊や暴言なども減ると言われています。
このような簡単な回想法は、自分でも手軽に行うことができます。昔の写真、音楽や映画・ドラマ、思い出のおもちゃや家具、このようなものに触れると、ふだんは忘れている記憶がよみがえり、昔に戻ることができます。このとき、脳の前頭葉が活性化され、情動が活発になるだけでなく、人生の豊かさを実感し、幸せを感じることもできます。
さらに、専門家のサポートがなくても、ごく自然に、過去の自分が現在の自分に
つながっていることを感知し、時を積み重ねて生きてきた自分に対する、いたわりや尊敬の感情も生まれてくるのではないでしょうか。
思い出は私たちの人生を支えてくれます。時には、古い思い出の写真をながめ、親しい人と思い出を語ってみてはいかがでしょうか。