敵のためには祈れなくても
イグ・ノーベル賞という賞があります。
人々を笑わせ、考えさせてくれる研究に与えられる賞で、ノーベル賞のパロディ。パロディとはいえ、かなり本気で遊んでいて、毎年、秋にハーバード大学で授賞式があるのですが、かつてはノーベル物理学賞受賞者が、壇上の掃除係(!)を務めていたりもしました。この受賞者はスピーチをするのですが、制限時間はわずか60秒。60秒過ぎると、8歳の女の子が出てきて、「退屈だからやめて」とストップする仕組み。中には、女の子にお菓子を渡して、しゃべり続けようとする受賞者もいます。(失敗していましたが)
なぜか日本人研究者は、この賞の常連で、今年で12年連続受賞しています。過去の日本人研究者には、バナナの皮がなぜ滑るのか、をまじめに調べた研究なども。
そんなイグノーベル賞を、お酒を飲むと自分が魅力的だと勘違いするという研究で受賞したのが、オハイオ州立大学のブラッド・ブッシュマン教授。このブッシュマン教授は、怒りや攻撃性の研究が専門。彼のアイオワ州立大学時代の研究によると、腹が立ったときに怒ると、余計腹が立つようです。
実験では、被験者に作文を書かせ、それを他の被験者にぼろぼろに酷評させます。そうして腹が立った被験者を3つのグループに分け、
第1のグループは、酷評した人のことを考えながらパンチングボールを叩かせます。
第2のグループは、運動による健康効果を考えながら、パンチングボールを叩かせます。
第3のグループは、2分間何もせずに静かに座っているように言われます。
その後、彼らがどの程度怒っているかを調べると、第1のグループが一番怒っており、第2、第3のグループはあまり怒っていませんでした。これらの実験の結果、怒りを表現することで、怒りは増幅され、無関係の他者にまで怒りをぶつけてしまうことがわかりました。
逆に、2011年のブラッドマン教授の研究によると、怒りを静めるのにもっとも効果があったのは、善意をもって他者のために祈ることだったといいます。
実験では、
他者のため、
彼らを怒らせた人のため、
困難な状況にいる友達のため、
それぞれ祈ったところ、いずれも怒りを静めたとのことでした。これは信仰の有無とはかかわりがなかったそうです。
敵のためには祈れなくても、困難にいる友のために祈ることで、怒りの感情はコントロールできるのですね。