新しい習慣を身に付ける（１）
今までの自分に何か問題を感じたり、もっとより良い自分でありたいと思うことはありませんか。そんなとき、私たちは、習慣を変えたら自分も変わる、そう思って、新しい習慣を身に付けようとします。
- もっと健康な自分になりたい。だから、明日から朝早く起きてジョギングをしよう。
- もっといろいろなことに挑戦したい。だから、明日から、だらだらテレビを見るのはやめて本を読もう。
- もっとスマートになりたい。だから、明日から甘いものを食べないようにしよう。
などなど、、、。
しかし、残念なことに、多くの場合、新しい習慣を身に付けるのは、それほど簡単なことではないですね。早起きしてジョギングを始めたけれど3日坊主、なんて経験はありませんか？
習慣というのは、脳が記憶している行動のパターンです。記憶したものですから、それに従っている限り、脳は新たにものごとを考え、判断する必要がありません。そのパターンに従うことで、脳は消費エネルギーを減らすことができます。言い換えれば、私たちは、意識や努力、意志の力なく、習慣的行動を行うことができるわけです。
たとえば、私たちは駅から自宅まで、たとえスマホをいじりながらでも帰ることができます（途中で事故にあわなければ、ですが）。これは駅を降りるとスイッチが入って、自宅まで帰るというパターンが実行されるからですね。ですが、駅からの帰り道に、普段は行かない場所に寄ってゆくとなると、意識をしなければ行けません。仮に、改札を出てからスマホをずっと見ていれば、うっかり寄るのを忘れて自宅に帰ってきてしまいかねない（事故にあわなければ！）わけです。
一言で言えば、習慣になっている行動はラクなのです。
一方、新しい習慣を取り入れることは、脳にとってはストレスです。
ある習慣が悪いものだと判断し、新しい行動をしようとするのは「認知的制御」というものを行う脳の前頭前野です。しかし、前頭前野は、エネルギーを大量に使いますし、強いストレスがかかると働かなくなります。古い習慣をやめることでストレスがかかると、古い習慣をやめようとする脳の部分が働かなくなるのです。新しい習慣が3日坊主になりやすい、というのは、脳の性質によるのですね。
このように、変わりたいと思っていても、私たちはなかなか変わることができません。
しかし、新しい習慣を身に付けるための技術は、かなりの程度明らかにされています。その一つとして、自分が変わりたいと思った理由をはっきりさせるのが、助けになるようです。
「変わりたい」と思っても変われない、と言いましたが、より正確に言えば、「変わりたい」と思うだけでは十分ではないのです。新しい習慣を実行すると、必ず困難に直面します。その困難にくじけないためには、実は、最初の「変わりたい」という思いだけでは動機として不十分なことが多いのです。
そこで、なぜ「変わりたい」のかを、考えてみてください。
「変わりたい」という思う場合、その理由は、外からの報酬を目的とした外部的な理由と自発的な理由に分けられます。外からの報酬とは、ごほうびがもらえる、とか、周りから認めてもらえる、というもの。異性にもてたい、なんていうのもそうですね。こうした外部との関係で報酬を得ることが、変わりたい理由になっている場合があるわけです。一方の、自発的な理由とは、自らの健康、幸福、満足などをたかめたい、というような理由です。
そして、研究によって、外部的な理由で変わろうとするよりも、自発的な理由によって変わろうとする方が、実現の確率が高いことがわかっています。
言い換えれば、自分の中の価値観や人生観、どのような人生を送りたいか、どのような感覚を持って日々を過ごしていきたいか、などと適合している目的であればあるほど、困難を乗り越え達成しやすい、ということです。
新しい習慣を身に付けるためには、動機がすべてではありません。しかし、自分を変えたいという希望が、自分が心から望むものと一致していないのであれば、仮に、変わることができたとしてもむなしいですよね。ですから、まず、自分が変わりたい、その理由をしっかり考えてみることは、有効なばかりでなく、とても大切なことなのだと思います。
そして、一見、外的な理由で変化を望んでいるようでも、心の奥をよく見つめると、変化を望む自発的な理由が隠れていることもあります。それを意識できれば、日々の活動に、より意義を感じることができ、変化がもたらす困難を乗り越えやすくなる効果があるかもしれません。
