社会的なつながりがあなた?
かつて、大漫画家、手塚治虫さんの作品に「三つ目が通る」という漫画がありました。額のあたりに第三の目がある少年が、普段は隠している第三の目を開いたときに超常的な力を発揮するという話でした。第三の目といえば、額のあたりには第6のチャクラ、というものがあるという考え方もあるそうです。
ところで、
額のすぐ内側には、脳の内側前頭野があります。ここは、脳の中でも、「自分」という感覚を作り出す場所です。人が自分の性質を考えたり、自分自身が何者であるか、を考えるときには、この内側前頭前野が活性化するのです。ただし、鏡などで自分の姿を見るときに活性化するのは別の場所で、ここでいう「自分」とは、本質的な「自己」という存在。
しかし、この内側前頭前野は、一方では、他者の評価によって活性化する場所でもあります。
自然科学研究機構生理学研究所の実験で、被験者を含む何人かが、フジテレビのIPPONグランプリのネタを使った大喜利を、おもしろおかしく読み上げます。それに対し観客役の数名が大受けしたり、やや受けたり、しらけたりします。すると、被験者の内側前頭前野は、自分が読み上げた大喜利が大受けしたときに、活動が活発になっていました。そして、内側前頭前野から線条体という報酬系の回路に強い信号が送られており、被験者は「うれしい」という気持ちを感じていたのです。
自己を認識する内側前頭前野は、同時に、他者の評価によって活発になり、その結果、報酬系に強い信号を送る場所でもあったわけです。つまり、自己認識のうちには、他者からの評価も重要な要素となっていると考えられるのです。
さらに、UCLAのマシュー・リーバーマンは、学生たちに皮膚科学会の発表した日焼け止めをつかうべき、という報告をみせました。報告を見せた後で、今後、日焼け止めを使うか質問をして、さらに1週間たって、実際に使ったかどうかの追跡調査をしました。
すると
発表を見た後の質問に日焼け止めを使うと答えたか、使わないと答えたか、と、追跡調査の結果、本当に使ったかどうかとは関係が見られませんでした。しかし、皮膚科学会の発表をみていたときに、内側前頭前野が活発に活動していた学生ほど、実際に日焼け止めを使ったことがわかりました。
つまり、
私たち自身が、どのように意識的にどう判断したかとは関係なく、内側前頭前野が活性化することによって他者の考えを取り入れていた、ということなのです。
このように、私たちの自己のイメージは、私たちが思っている以上に、他者からの評価、他者の考え方に大きく影響されており、私たちが漠然と思う「自己」というものの確固としたイメージと、実際の「自己」のあり方は、いささか異なっているようでもあります。
ただし、だからといって、自己は幻だ、とか、そういうことではなく、私たちは、徹底的に社会的な存在であり、私たちの周囲の人たち、私たちが読むもの、私たちが聞くもの、すべてを含んで「自己」なのだ、ということです。
近代的な発想が前提とした「原子のように孤立した存在である個人」などというものは、いわばフィクションであり、人間は、最初から最後まで、かかわりのなかに存在していて、その関係性抜きの個人などというものは、本当はありえないものです。
さて、何回か書いていますが、
加齢によるフレイル(虚弱)には、身体的な側面と心理的な側面以外にも、社会的なフレイルがあります。
サクセスフル・エイジング、すなわち成功した加齢のためには、身体面での上手な加齢のための戦略、心理面での戦略と併せ、人間関係の再構築など社会的な在り方も含めた戦略も必要だということが、ここからも言えると思います。
仕事の上での人間関係とは別の人間関係のあり方を見つめなおしたり、ボランティアや趣味の面など、利害関係のない新しい人間関係を充実させていったり、場合によっては、地域の人間関係資本を充実させるための働きをするなど、できることはいくつもあります。それは、からだを鍛えたり、心の在り様を見直すのと同じくらい重要なことなのです。
あなたという存在は、あなたの人間関係も含めて、あなたなのですから。